カマキリの卵ノウの高さと最大積雪深の相関について

 先日紹介した『カマキリは大雪を知っていた』の酒井さんの研究だが、これを疑似科学ではないかと批判する声があるようだ。なかなか面白い教材だと思うので考えてみたい。
 批判の内容を分類すると次のようなものがある。

1.大地の振動とかありえねー→トンデモだ!
これはどう見てもアウト。単に「うさんくさい」という印象だけで判断するならその方がトンデモでしょ。

2.卵ノウが雪に弱いと言うのは間違いだ→酒井の論はそれを前提にしている→トンデモだ!
 相関自体は実証したのだから(しかも公的な学術論文で)、それを否定しなければ全面的な反証にはならない。そもそも実証的に反論できるならそれは反証可能な学説なのであって、少なくとも反証可能性を基準にするなら立派な科学でしょ。間違った学説をみんな疑似科学にしていくと言うほうがトンデモだよ。

 しかも、確定情報ではないが、「酒井の論文がそれを前提にしている」という認識自体の間違いを示唆する以下のような話があるがどうか? 私はこれから調べてみるつもりだが、これが事実ならこのタイプの酒井批判者は間違った前提の思い込みに基づいて批判していることになる。

48 :名無しのひみつ[]:2007/12/10(月) 15:30:29 id:DavyU5ib
酒井博士はそんな主張していない

研究の発端での仮説は「雪に埋もれたら死ぬじゃん」だったが
そうではないことがわかったとしている
カマキリは地面の振動に反応して高さを調節しているらしく
立地や地震と 卵のうの高さについて検討もしている
http://unkar.jp/read/news24.2ch.net/scienceplus/1197258537

3.相関を出すのに「補正」とか言ってる→トンデモだ!
 論文の要約を読むと、林相や地形によって最大積雪深は異なるので補正をかけたと言っている。これは普通に読めば、地域全体における最大積雪深と、地域内のそれぞれ異なった環境における最大積雪深ではずれが出るのは当たり前で、それぞれ異なった環境における正確な最大積雪深を計算に組み込もうとしたのだと分かる。つまりより自然の状態に近似したデータを手に入れるための補正であることが推測できる。可能性として補正の方法に問題があることが考えられるが、しかし、これは理系の学術論文であって、論文を読めばその方法がちゃんと書いてあるはずである。書いてなければそれはそもそも理系の論文として問題だが、ちゃんと理系の博士論文として通っているのだから書いてないという可能性は非常に低い。さらにその方法が間違いであったとしても、上述したように具体的に書いてある方法を具体的に批判できるのだから、そういうものを疑似科学と呼ぶのはおかしいでしょう。間違いと分かっているものをあえて主張するのと、単に間違ったというのではぜんぜん違うことだ。間違ってると分かってる方法を逐一丁寧に理系の学術論文にさらけ出す疑似科学があるかという話。批判するなら具体的にその方法の間違いを批判しなければただの印象による決め付け、疑似科学にしかならない。

4.カマキリの予知能力を解明したわけじゃないのに、そのように取れることを言っている(大雪を知っていた)→トンデモだ!
 いや、こじつけだって。そもそもこの批判をする人は酒井さんの相関についての研究そのものが間違いだということと表現が間違いだということをごっちゃにしているようだ。私も池内さんが昆虫が擬態している云々について書いたけど、そういうのは往々にして細かい表現の問題でしょう。実際にカマキリの卵ノウの高さと積雪深の相関が実証されたなら、そういう言い方もありうる。それが科学的な言明なのかどうかぐらい疑似科学を批判しようという意気込みがあるような人なら文脈からして分かるんじゃないか。