『寄生獣』について

 精神医学の用語に〈移行対象〉というのがあるらしい。小さな子どもが母親のもとを離れて厳しい現実に向かい合っていく過程で、精神のよりどころにする物や人のことを指すらしい。具体的にはスヌーピーの話に登場するライナスがいつも持っている毛布がその一例だという。
 まんがの『寄生獣』に登場する寄生獣のミギーはその移行対象である。主人公のシンイチが大人になる過程で一時的に寄り添い、そして離れていくという、移行対象がたどる過程を正確にたどっていたことから考えて、間違いない。
 ところで、移行対象を一時的に保持し、最終的にはそれを捨て去り、またその過程と主人公の成長が重ねあわされているというプロットは多くの物語に見られるものであり、最も基本的な物語の形式であると考えられる。タイトルを忘れてしまったので具体例を出せないのが難点だが、子供向けの絵本などをめくってみればそのような物語はすぐにみつかるはずである。そういえば『指輪物語』に出て来た指輪などは移行対象と考えていいかもしれない。あるいは『となりのトトロ』のトトロなども、「子どものときにだけ」訪れる出会いであるところからして、明らかに移行対象である。
 さて、そのように、移行対象を一時的に保持し、最終的にそれを捨て去り、なおかつ主人公の成長がその過程と重なっているという物語の形式が最も基本的なものだとすると、『寄生獣』という物語は最も基本的な成長物語の形式を持った物語だということになる。私は、『寄生獣』が傑作として支持されている理由のひとつには、意識的にせよ無意識的にせよ、そのような最も基本的な形式の物語構造の力があると考える。美男美女とされる人の顔というのは、あらゆる人の平均を取った顔から少しだけずれている顔だそうだが、『寄生獣』の面白さもそれと似たものなのかもしれない。つまり、最も基本的な(平均的な)物語形式から、少しだけずれた要素を持っていること、これが『寄生獣』固有の面白さとなっているのではないだろうか。
 では、『寄生獣』はどのようなところが形式に付加されたことが重要だったのか。いまのところ私には分からない。 
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