お酌と贈与

 お酌という文化は、マルセル・モースが『贈与論』で論じた贈与の体系でかなり説明できるような気がする。最近お酌には「ご返杯」というものがあり、それを受けないことは「失礼」だとみなされるということを知った。なんで与えないならともかく、受けないことが失礼なのか意味不明だったのだが、ポトラッチ研究から抽出された贈与の体系は与える義務、受け取る義務、お返しする義務の3つから成り立っており、お酌もその一変種なのだと解すれば納得がいく。
 ただお酌については、西洋では身分の高い人が低い人に与えて太っ腹を誇示するのに大して日本人は身分が低い人間が高い人間にまず注ぐという違いを聞いたことがあり、そのあたりはどう解すればいいのか、いやそもそもその違いは本当なのか。
 それにしてもお酌というのはわずらわしい。どうも、お酌という行為の体系に参入するということは、ある共同体に参入することと同義であるように思えてならない。酒を酌み交わす仲、なんていう曖昧模糊とした気色悪い関係はごめんこうむりたい。ま、それを拒否して暗黙の前提にひびを入れて冷や水を浴びせるのも仕事のうちかもしれない。ドライな契約でいきたいものだ。

贈与論 (ちくま学芸文庫)

贈与論 (ちくま学芸文庫)