化粧について

 私の大学時代の女の子の友達の中に、「社会人の女は化粧するもの、それこそがちゃんとした姿である」という意識を強く持っている子たちがいた。よく分からないのだけれども、一般的に社会人女性は人前には化粧をして出て行くのが礼儀である、という雰囲気を漠然と感じている。あるいは私が世間を知らないだけで、そういうことはもっと広く行き渡っている通念なのかもしれない。
 そのような化粧に対する意識は私には理解しがたいものであるが、一般通念はひとまずおくとして、女性自身が考えるところの化粧の重要性というのは、ある面で周囲、特に男性との間に認識のギャップがあるのではないかと思う。
 先日職場でラジオを聴いていたら、谷村しんじの放送が流れ、その中の男性リスナーからの投稿に、「女性の爪を塗るのだけは勘弁して欲しい」というものがあった。これについて谷村しんじ(男)もそのリスナーと同意見だったのだが、隣の女性は「むしろ塗っていないとちゃんとしていない感じがする」という意味のことを述べていた。つまり、女性の側としては「見られる」ことに最大限に気を遣っているつもりが、実は「見る」側に対して実用的効果を発揮していないという構図である。このような構図は、たとえば雑誌『cancam』内において洗練されているとされることが、「スイーツ(笑)」などといってむしろ馬鹿にされるというネット上の現象にも当てはまると思う。そして同時に、そのような認識のギャップというものについてしばしば当の女性が意に介さないということがあるように思う。そこにおいて、彼女たちはいったい、誰に「見られる」ことを意識しているのだろう? 爪の色を女性同士で「カワイー」とか言っていたりするということはあるから、あるいは同性の目を意識しているのかもしれないが、私としては、何か別の幻想に取り付かれているのではないかという気がする。
 上述の女の子の一人は、しばらく化粧をしなかったら、彼氏から「最近気を抜いてるんじゃないの?」と言われたそうだ。だから、女性がきちんと化粧をしている、ということが、自分に対して関心を示しているということをあらわすものだと男性が感じている部分もあるのかもしれないが、そういう意識とはずれたところに女性にとっての化粧の重要性はあるのだと感じるのである。